動物園に興味のある人にぜひ読んで欲しい本『大人のための動物園ガイド』

『大人のための動物園ガイド』という本を読みました。

「大人が動物園を楽しむための読本」のようなニュアンスで読み始めたのですが、途中からずいぶん深い話になり、読み終わってみれば動物園に対する見方がずいぶん変わってしまった、そんな本です。とてもよい本です。

多摩動物公園の園長、井の頭の動物園の園長、東京都の各動物園の職員たち、合計5人による共著。それぞれ書き手のプロではないものの、動物と動物園に向き合っている人でしか書けない内容です。

人は一生の間に何回くらい動物園に足を運ぶのだろうか?

「人は一生の間に何回くらい動物園に足を運ぶのだろうか?」という前書きからやられてしまうのですが、動物園業界でよく言われるのは「3回説」だそう。小さいときに親に連れられて1回、小学校の遠足で1回、親になって子供を連れて1回、それで終わり。

2000年前後からの旭山動物園ブーム、2005年頃の市川市動物公園のレッサーパンダの風太ブーム、今年で言えば上野動物園のパンダ来園ブームと、定期的にキャッチーなニュースがきっかけで動物園ブームが起きるので、もう少しみなさん動物園に足を運んでいるかもしれません。

僕と相方さんは年に10回以上も動物園に行くようなおかしな人種なのですが、大人こそ行ってほしい場所であり、いろいろ勉強になる場所だと思っています。動物を見ていると飽きないですしね。

大人のためのガイドブック的内容は半分

さて、本の内容。ざっと内容を挙げておきます。

  1. 動物園の大人の味わい方
  2. 動物園を飼育する
  3. 動物を集める
  4. 動物を展示する
  5. 動物を増やす
  6. 動物園の社会学
  7. 動物園の過去、現在、未来

「1. 動物園の大人の味わい方」「2. 動物園を飼育する」でだいたい本の内容の半分を占めます。本の題名から想像できるような、「大人が楽しむ動物園」ガイドブック的な内容。観察のポイントや写真の取り方など、このあたりは楽しい内容です。

そこからの後半が、少し深くなってきます。「動物を集める」。いま動物園の動物の大半は、動物園で繁殖した動物の貸借や交換によって成り立っています。そのむずかしい繁殖計画や他園との交渉、ワシントン条約をはじめとする法令との関係、動物の輸送など、動物園の基盤となる話。

「動物を展示する」。施設というハード面、そして「どう見せるか」というソフト面での展示について。このあたりは近年活発になっているエンリッチメントの考え方であったり、旭山動物園で注目を集めることになった行動展示であったり、「飼育しつつ同時にどう見せるか」というお話。このあたりも、旭山動物園の影響で、最近は雑誌やテレビで取り上げられることが多いと思います。

「動物を増やす」。これは繁殖計画の話ですね。重要なところです。

「動物園の社会学」。この章がおもしろかった。社会や私たちの生活における動物園の役割の変化、そして今後のあり方など、統計データや調査データを元に話が進められます。このあたりで、僕は何らかの形で力添えできたらと思っています。僕たちがなぜ動物園に行くのか、動物園が今後も経済的にも存在していくために、じゃあ僕に何ができるのか、社会的意義や観光や娯楽の側面において、マーケティング的にどう貢献できるのか、もう少し自分の中で咀嚼したいところ。

「動物園の歴史」。これも社会学と合わせてその背景の理解として。うーむ、このあたりまでくると、気軽に読めるような内容ではなくなってくるのですが、まあ「大人な」動物園の本ですね。

動物園の4つの役割

本書には、何度か動物園の役割について触れています。著者が複数名いらっしゃるので、内容が実は統一していないのですが、動物園の役割としてはおおむね共通理解としては以下の4つのようです。

  1. 教育
  2. レクリエーション
  3. 自然保護
  4. 研究

世間一般的には「レクリエーション」「教育」の側面だけで捉えられがちですが、この4つの役割のバランスで成り立っているのが動物園です。それを改めて確認できたのと、動物園の裏側の、まあ普通の人は知らなくても困らないような動物園の苦労の一部分を知ることができたという点で、非常に有益な本でした。僕としても、動物園の見方が大きく変わった本です。

動物園に興味のある大人に、ぜひ読んで欲しい本です。あまり大きな出版社ではないと思うので、ぜひ買ってあげてください。

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