『動物園にできること 「種の方舟」のゆくえ』を読んだ

川端裕人氏の本『動物園にできること 「種の方舟」のゆくえ』を読みました。人間にとって動物園とは何かを深く考えさせられる本でした。

350ページ足らずの文庫本なのに、読み終えるのにものすごく時間がかかってしまい、去年の12月の終わり頃から1月中旬まで読んでいたと思います。ページをめくっては考え、何度も立ち止まってしまいました。さらにこれを書いているのも読み終えて1週間以上は経っています。

何度かブログで書いていると思いますが、僕は動物園は大好きです。いろんな動物がすてきな表情を見せてくれる場所として、また普段接することのできない動物とコミュニケーションをとることができる場所として、貴重な場所だと思っています。

一方でその動物園の存在は、人間の葛藤や矛盾や(言ってしまえば)エゴの上に乗ったものであるというのは感じていたところではあったけれど、その葛藤や矛盾をひとつひとつ丁寧に机上に並べて整理していったのがこの本、という感じがします。1990年代後半の、日本の動物園より一歩も二歩も進んでいるアメリカの動物園の実情のルポという形でまとめられています(「進んでいる」という表現が妥当かわかりませんが、動物園のあり方や意義について動物園が自主的に取り組みを始めているという意味では先を歩んでいると思います)。

動物園はどういった存在であるべきか、「教育の場」か「種の保存の場」か「環境保全を訴える場」か「エンターテイメントの場」か、また動物にとってどのような環境が過ごしやすいのか、それはどこまで「動物主体」のものか、動物園が発しているメッセージは僕らに届いているのか、届けるべきなのか…。それらにおそらく「正解」はないのですが、読み手にそれらを考えさせるだけの材料は山のように提示されています。

さて、動物園はどうあるべきなんだろう。

去年頃からふつふつと沸いてきた動物園の何かしらのマーケティングに関わっていきたいという思いとぶつかるこの問いに、自信を持って言葉を発することはいまはできません。ただ、いまの僕は、動物園に行った人が、動物との「コミュニケーション」の中で動物に興味や関心を持ってもらい、動物園は楽しい場所だという感情を持ってもらうというステップまでいってもらえたらひとまずいいな、と思っています。そこからは、動物の種の保全や地球環境への関心につながることもあるだろうし、ペットを飼いたいという方向に行くこともあるだろうし、でも動物園は多くの堅いメッセージを発するべきではないと思っています。いまこの時点での私感です。
動物園に就職しようとしている人、動物と関わる仕事に就く人は、読むべき本だと思います。

動物園にできること (文庫)

動物園にできること (文庫)
川端 裕人
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