組織上のポジション別、アナリストに求められるスキル

「アナリストに求められるスキルについて」は、至る所で議論されている内容ですが、書籍『分析力を駆使する企業』で組織上のポジションごとにわかりやすく提示されていたので、紹介します。

実は3年半ほど前にこのブログでもよく似た内容のエントリー記事を書いているのですが(「Webアナリストに必要なスキル」、今回と内容はまったく違います)、改めてこの2013年に、書籍からの抜粋と私からの補足という形で書き改めてみようと思います。

アナリストに求められるスキル

アナリストに求められるスキルとして、4つ挙げています。

  1. テクニカルな能力
  2. ビジネスの知識
  3. コミュニケーション能力
  4. コーチング能力

テクニカルな能力

「分析能力」です。さまざまな分析手法や統計の知識を理解した上で、要件に応じてふさわしい分析が行えるだけでなく、必要なソフトウェアやツールの仕様を理解しかつ駆使できる能力です。この時点で相当ハードルが高くなるのかもしれませんが、「アナリスト」が文字通り「分析する人」という意味であれば、必要な能力であることには間違いありません。

あらゆる分析手法や統計の知識を理解しているという意味では、私個人としてはまだまだ未着手な部分があります(そこに着手するかはさておき。なぜなら私は「分析屋」ではなく「提案」する方に軸足を置いているため)。

ビジネスの知識

自社や顧客の事業内容やビジネスモデルをどれだけ理解しているかという点です。一般的なビジネスの知識だけでなく、その業界のビジネスプロセスや特殊性を理解しなければ、一定以上の分析結果は得られません。

私の会社(真摯)は基本的には顧客に対して改善のご提案をしますから、さまざまな業界のビジネスをどこまでどれだけ理解するかが重要です。

コミュニケーション能力

「アナリストがプロジェクトのメンバーや顧客とどれだけ深いコミュニケーションを取れるか」という能力です。課題や重要な情報をどれだけ引き出せるか、また自身の分析結果をどれだけ適切に伝えられるか表現できるか、という両方の側面があります。必要な情報を聞き出せず、また分析の内容をきちんと伝えられなければ、分析には価値はありません。

むずかしい言葉や表現で煙に巻いてはいけないのです。

コーチング能力

ただでさえ希有な人材であるアナリストですから、少しずつその可能性のある人を育てなければなりません。可能性のある人のレベルアップのために、上記で挙げたような技術や知識の共有を図らなければいけません。そしてこれは、なかなかむずかしい点でもあります。

アナリストはある意味マルチな人間で、専門職や職人的なものと捉えられがちですが、そのポジションの人を増やす努力をしない限り、プロジェクトがストップしてしまうリスクは高いままです。

ポジション別スキル

上記に挙げた4つの能力をすべて備えているような人はほとんどいません。募集をかけても100点満点の人を待っていれば採用は永遠に終わらないでしょう。自社の組織の各ポジションのメンバーで、それぞれの能力を割り振った方が現実的です。このあたりが、書籍『分析力を駆使する企業』で書かれているおもしろいポイントです。もちろん、自社内で割り振るのがむずかしければ、親身になってくれるパートナーに依頼するのでも良いはずです(ぜひ)。

書籍『分析力を駆使する企業』では、アナリストをポジション別の4つのタイプに分けています。概要を紹介しますが、単語そのものの意味で早合点しないよう気をつけてください。

  • チャンピオン…分析志向の強い経営幹部。経営上の意志決定の際にデータ分析を重視し、また重要な分析プロジェクトを後押しする人。
  • プロフェッショナル…その名の通り専門知識を備えた「分析する人」。
  • セミプロフェッショナル…プロフェッショナルが導き出したモデルや結果などを自分の仕事に応用するスキルを持った人。ビジネスへの展開に長けた人。
  • アマチュア…分析専門の職種ではないが、必要に応じて分析を行うことがあり、ある程度理解している人。適切な知識を備えた「分析消費者」。

書籍ではこのようにポジション別にアナリストを4つに分けた上で、先ほどの4つのスキルのレベルを割り当てています。

アナリストのタイプ別スキル
▲『分析力を駆使する企業』P182より

  テクニカルな能力 ビジネスの知識 コミュニケーション能力 コーチング能力
チャンピオン ★★ ★★★★ ★★★★ ★★★★
プロフェッショナル ★★★★ ★★ ★★
セミプロフェッショナル ★★★ ★★★ ★★★ ★★
アマチュア

★…初級程度
★★…中級程度
★★★…上級程度
★★★★…エキスパート級

こうやって「ポジションの軸」と「スキルの軸」に分けてプロットすると、少しは自分の役割と必要とされるスキルを把握しやすくなります。おもしろいです。

まったくこれに異論がないわけではありません。例えば日本において、経営幹部(多くは相当級のマネージャーだったり役員)がこのレベルのコーチング能力を持つかわかりませんし、現実的ではないかもしれません。むしろ、セミプロフェッショナルのコーチング能力がもう一つレベルアップしても良いように感じます(そうするとセミプロフェッショナルが実は一番理想な人間になりますが、ハードルも高くなってしまいます)。

あと、アマチュアであっても、それはテクニカルな能力において「アマチュア」であって、ビジネスの知識やコミュニケーション能力はやっぱりもう少しほしいですよね。

また、一つの企業や組織に「チャンピオン」「プロフェッショナル」「セミプロフェッショナル」「アマチュア」の4人がそろっていることがまれかもしれません。あなたの企業に「チャンピオン」はいるでしょうか。

とはいえ、4つのスキルを100%持つ必要はないというのは同感です。私にも得手不得手はありますし、仮にこれから入社してきてほしい人たちにすべてを100%求めることはありません。あわよくばセミプロフェッショナルを、と勝手に希望したりしますが、そのような人はそもそも引く手あまたでしょう。望む環境と仕事内容と待遇で選べばよいと思います。

もしこの領域に進もうと考えている人がいれば、自身がまず直近で進もうと考えているポジションと、自身がいま持ち合わせているスキルを照らし合わせると、次に何に取り組めばよいのかが少しは見えてくるのではないかなと思います。

世間的にも「分析」「アナリティクス」が注目を集めるようになってきました。あらゆる人が分析的な人間になる必要はありませんが、いまよりも少しだけ分析的になった方がさまざまなビジネスではメリットは大きいですし、そういう人が増えてほしいと思っています。少なくとも、さまざまな企業でその力を持っている人が必要とされています。ぜひ。

書籍の紹介

この内容は、書籍『分析力を駆使する企業』から紹介しました。2011年の本です。企業として分析力を高めるために必要な要素を挙げつつ、組織としてそれらにどう取り組むかを非常にわかりやすく整理されています。2008年に出た書籍『分析力を武器とする企業』と合わせて、読むと良いです。

勝手に、真摯の推薦図書にします。ある一定規模の企業や組織でアナリストを育成しようと考えているところは、読んだ方がよいと思います。

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