僕はサイゼリヤから多くのことを学んだ – 『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』を読んで

サイゼリヤの創業者で会長の正垣泰彦氏の著書『おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』を読みました。

実は僕は、15年程前に新卒でサイゼリヤに就職し、2年半という長くはない期間を働いていました。その短い期間に多くのことをサイゼリヤから学んでいたのだなあと、この本を読んで改めて思いました。

ちなみに、僕の最後の役職は高岡店の調理マネージャー(いわゆる調理長)。当時は確かストアマネージャーの次のポジションでした。キャリアのステップとして社員全員がフロアも調理場も担当していくので、僕も割合こそ調理場の方が多かったものの、調理も接客も同じ程度していました。

あらゆる現象を可能な限り数字に置き換え、因果関係を考えること

サイゼリヤがおもしろいのは、非常に科学的にビジネスをしているところ。ビジネスとして至極当たり前のことですが、正垣氏が東京理科大学出身だからか、あらゆるものを数字をベースに見ています。

僕がいた15年前も「重要なのは売上ではなく、人時生産性」と、マネージャーからよく聞きました。店舗として売上はそれほどコントロールできないですが、人時生産性はコントロールできます。この本でも『適正な利益を確保するという意味で、私が創業時から重視する経営指標が「人時生産性」だ』と出てくるので、いまでも変わらず軸は変わっていないようです。文中では「サイゼリヤの人時生産性は1時間あたり6000円が目標」とありますが、僕がいた当時は4000円ぐらいだったでしょうか(人時生産性=1日の粗利益額÷従業員の1日の総労働時間)。

チェーンストア理論は、外食チェーンにとって多店舗化するための「原理原則」といえるだろう。しかし、この「原理原則」通りに経営するというのが非常に難しい。

なぜなら、人間は何かを考えるとき、先例や成功体験を前提に自分にとって都合の良い、あるいは得をするような結論(経営判断)を導き出してしまいがちだからだ。

(略)自分本位に物事を考えてはならない――。

世間でずっと言われていることだが、そうした失敗がなくなることは決してないだろう。ただし、「物事をありのままに見る」ことで、私の言葉でいうところの「原理原則」を知り、正しい経営判断ができる可能性を高めることはできる。

そのためには、店で起きるあらゆる現象を観察し、可能な限り、数値や客観的データに置き換えて、因果関係を考えることだ。

おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ

そして、この考えを前提にPDCAサイクルを回し続けることが勘に頼らない科学的な経営をすることだ、としています。

そう、ビジネスであれば、基本こうあるべき。Webサイトだってそう。

「なぜ」という自問や仮説を続けること

その心構えとして、「なぜ」という自問や仮説を繰り返すことが大事です。本では「なぜそのようなことが起きているのか?+なぜ自分はそう思うのか?」を自問することとありますが、これは飲食業という結果の想定する領域が比較的明確なビジネスだからでしょうね。料理とサービスを提供する、で、現状(結果)はこうだった、なぜなのだ? 仮説としての目標とのギャップに対する自問。そこで外的要因のせいにしてしまわないこと、と。

業種が違えば、想定される結果が数字以外にも及ぶ場合もあるでしょう。たとえば全然違う方向性の結果になる場合などなど。施策に対する想定される結果(これが目標であり、仮説)を持ち、そしてそれに対する結果への自問を繰り返すこと。そこからのフィードバックを次の施策に反映させること。

PDCAサイクル。そう、「どんなに考えても、間違えることはいくらでもある」。だから仮説と自問を繰り返し、改善していく。

別のところで読んだと思うのですが、サイゼリヤの主力商品のミラノ風ドリアは、いまでも延々と改良されているはずです。

僕がいた当時は380円ぐらいだったと思うのですが、毎回店舗での仕込みが必要だったドリアライスをセントラルキッチンで仕込んだサフランライスに変更し(店舗での工数削減)、僕が辞めてからは価格が290円になり、ホワイトソースが変わり、ミートソースが変わり、サフランライスが変わり……、おそらくいまでもホワイトソースやミートソースや、調理上の課程の細かな改善が繰り広げられているのだろうなというのは、普通に想像できます。

一店舗に所属していても、マネージャーをはじめそういう文化が普通にあった会社でした。

ウェブビジネスとそう変わらない話。「外食」の枠の話ではない

読んでいておもしろいなあと感じるのは、いま僕が仕事として手掛けているウェブのビジネスのコンサルティングで言っていることとそう変わらないことが書かれていること。

  • あらゆる現象を可能な限り数字に置き換えて、因果関係を考えること
  • 仮説と自問を繰り返すこと
  • 改善を繰り返すこと
  • 「見える化」すること
  • 失敗からしか学べない
  • 数値目標は1つに絞れ

「PDCA」「可視化」「KPI」。陳腐さすら感じる言葉が思い浮かぶぐらいの内容。ああ僕は、サイゼリヤでこういうことを学んでいたのだ、と。

改めて本の表紙を見ると、帯には「仮説・検証」のマーケティング、とあります(上の写真参照)。

もちろん、本に書かれていることすべてに同意するわけではありません。人時生産性を上げることでの弊害があるのは知っていますし(サイゼリヤもそこは苦心しているはず。客層悪化やサービス低下につながってくるし、従業員も表に見せない負担が大きくなり疲弊につながる)、少し反論したくなる内容もあります。数字データのみが行動基準、と捉えられる危険性もあります。

とはいえ、店舗での実際の「接客というコミュニケーション」を体系的に学べたということ、そして、いかに効率を高めつつ良質のサービスを維持するかという意識を持つことができたということは、非常によい機会だったなと、サイゼリヤにいた2年半を思い出しながら読みました。

身近に感じている企業の、しかも当時の僕にとって社長だった方による著書ということで、好意的に読んだ本ですが、とても良い本です。


おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ
正垣泰彦 (著)
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